山登りが好きな前場治佳子さんは、「森の中で働きたい」との思いから前職を辞め、27歳の時に「岐阜県森林文化アカデミー」に入学。そこで2年間森林管理について学び、中濃森林組合に入職しました。現在は、森林の密度を調べる業務と測量、林業への興味を促進するための情報発信を担当。また、ボランティアや建築事務所が山の中で開催するイベントにも協力するなど、毎日をアクティブに過ごしています。
森の中で働きたい
現職に就く前は、小型旅客機や戦闘機、自動車関係の技術系業務に携わっていました。転職を検討し始めた時、好きな山登りに注目したのですが、その時にふと「森の中で働いてみたい」という思いが芽生え、どんな仕事があるかと調べてみたところ、「林業」というワードが見つかりました。それから林業の求人情報を探すも、手がかりがつかめない日々が続いたのですが、ある日偶然ネットに表示された小さな広告に、美濃市の専修学校「岐阜県立森林文化アカデミー」の情報が。これを見た時、「専門的な学校なら森林の知識と林業関連の企業情報が同時に手に入る」と思い、入学することにしたのです。
社会人になってから約5年続けてきたものづくりの仕事を辞めて、もう一度学生に戻り、その後林業の世界へ。この新しい道を歩もうとする上での不安はまったくありませんでした。むしろワクワクしていたくらいです。
アカデミーでは、森と木のクリエーター科の林業専攻に入りました。当時住んでいた名古屋市から通うのはさすがに難しいと判断し、学生の間だけ美濃市に引っ越しました。美濃市での学生生活はとても心地よく「卒業してもこの町で働きたい!」と強く思ったほどです。
樹木の調査で森の中へ
アカデミーを卒業することになり、就職先で悩んでいたところ、あるNPO法人の方に「林業をPRする仕事がある」との情報をいただき、それが中濃森林組合に入るきっかけとなりました。
入職後、私は「美濃市森の担い手情報センター」というサイトを立ち上げたメンバーのひとりとして、美濃市で林業に従事したいと考える人に向けて情報を発信しています。具体的には、市内の森林事業者とそこで働く人たち及び求人情報の紹介、移住・定住支援に関する情報の提供、SNSの運用などです。
私はかつて林業の求人情報を探していた時、何も見つからず歯がゆい思いをしました。その経験を踏まえ、林業の仕事を探している人にとって有益な求人募集をサイトに掲載することを常に心がけています。
林業のPR業務はデスクワークですが、もともと私が林業従事者を目指したのは「森の中で働いてみたい」と思ったから。入職時の面接では、この思いをしっかり伝えました。それもあって、実際に森の中に入り、樹木の密度を調査する業務も任されています。
樹木があまりにも密集していると、互いの成長を阻害し合って形質不良木へと育ってしまいます。また、樹木が太陽光を遮ると丈の低い草木が育ちません。このような草木は、土砂の流出を防ぐ大切な役目を果たしてくれるので、ある程度成長させておく必要があるのです。調査業務によって樹木の密度が高いエリアを見極めたら、それを報告書としてまとめ、自治体に提出。これが間伐業務の受注につながります。
皆さんも、日頃森林の重要性について耳にする機会があると思いますが、森の中の樹木は手当たり次第に生やしておけばよいというものではありません。必要に応じて間伐し、適切な本数や環境を維持していくことで、森林が持つ機能が生きてくるのです。
ドローンの免許も取得
森の中で働くことを目標にがんばってきたので、やはり調査業務が楽しく感じます。調査する場所までは獣道を歩いたり、這いつくばりながら斜面を登ったりもしますが、森の中は、鳥の鳴き声や木々の葉音など、街では聞けない自然の音色がたくさん耳に入ってきて癒されます。ひと通り調査作業を終え、空気の澄んだ場所で食べるお弁当の味は格別。森の中にいると、「数年前まで最新旅客機の製造に携わっていたなんて信じられない」と不思議な感覚に陥ってしまいます。
昨今、調査業務ではドローンを導入し始めました。山の中に入って目視で行う調査も、場合によってはドローンを活用すれば、安全かつ効率的に実施できるのです。そのため、ドローンの操作免許を取得しました。
今後、森林管理においてドローンの存在が大きくなると睨んでいます。例えば、飛来するドローンから音を発することで田畑に近づく野生動物を遠ざけ、獣害対策にも活用できるかもしれません。せっかく操作免許を取得したので、有意義な利活用を検討していきたいです。
一方、林業のPR業務でもやりがいを得られています。過去によく閲覧された情報を参考にし、新たな情報をサイトやSNSを通じて発信。それに対して多くのリアクションが得られた時は、PR担当としての存在意義を感じます。サイト自体は立ち上がってからそれほど年月が経過していないので、これからも積極的な情報発信を実践し、知名度を上げていきたいと思っています。
ボランティアにも参加
一般の方々が林業と聞いて真っ先にイメージする伐倒。これは、組合としてやっていますが、あくまでも私は調査業務を行うために森に入ります。ただ、プライベートで「美濃市森林ボランティアクラブ」に所属しており、そこでは時々伐倒もします。
また、アカデミーの先輩で一級建築士をされている方からの協力要請を受け、美濃市・関市の山の中で開かれるイベントのお手伝いもしています。参加者と一緒に森林散歩を楽しんだり、間伐の現場を案内したり、広葉樹を植える植樹祭では、植え方の指導もさせてもらいました。ほかにも、原木シイタケづくりなども実施予定です。
異業種からの転職でしたが、うまく順応でき、毎日が充実しています。林業従事者としてこれからやってみたいことも見えてきました。その実現に向けて今はとにかく努力を積み重ねていこうと思っています。