岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

つくっているときは
機械的に手先だけで
やっているのではなく、
頭で考え、思いを込めて
取り組んでいます。


伊藤建具 削り華コーディネーター
伊藤 知美(いとう ともみ)さん(八百津町)

【2024年9月 5日更新】

自然豊かな八百津町久田見に工房を構える伊藤建具。東濃ひのきや県産の杉を用いて木製建具・家具の製造をしているほか、建具の技術を使った小物商品「kisigoto(木仕事)」も取り扱っています。ぎふ木育サポーターでもある伊藤知美さんは、kisigotoの開発・制作・販売を通じて、木の恵みをもっと身近に感じてほしいと願っています。

介護の仕事から家業へ

元々の仕事は介護福祉士で、介護の現場にいました。八百津町に嫁いでからも、近くのデイサービスで働いていました。介護の仕事は人のためというやりがいを感じていたので、続けたいという思いもありましたが、夫の家業が自営業のため「そろそろ経理をやってみないか」と義父から言われ、手伝いを始めたのです。
建具屋は、高齢になり自分の代で終わりという方が多く、夫が跡を継いだことは少数だと知りました。「建具」という言葉自体を知らない人も多く、建具や使っている木材についても認知され、家づくりの際に選択肢のひとつになれないか、という思いが芽生えました。その一方、自営業は自分のためにやっているのかという迷いもあり、どこかすっきりできずにいました。
 しかし、建具は家の中で必要なもので、自営業も人から求められる仕事だと次第に家業の深みを知り、自分も何か役に立てるのでは、と思うようになりました。子どもたちの手が離れた頃、夫からも家業を手伝ってほしいと言われたので、私にしかできない家業に専念することにしました。

建具屋らしい商品を

 八百津町役場から、ふるさと納税の返礼品になるようなものはないか、と声をかけていただいたのがkisigotoを作成するきっかけです。当時は木製家具や建具しか作っていなかったので、建具屋らしい小ものとして発案しました。
 地元産ブランド「東濃ひのき」を使い、手に取りやすく、建具の技術を生かして、繰り返し遊ぶことができる商品として考えたのが、組子のパズルでした。「くみこもの」の初期作品で、子ども向けというよりは、家族で楽しい時間を共有してもらいたいという願いから、「木育」という言葉も商品に使っています。
 組子には高い技術が必要なため、制作は夫頼りですが、多忙のときは、頼みづらくなってしまいます。そこで私ひとりでも完結できることはないかと、工場の中を見回していたところ、かんなをかけた際に出る木材(「かんなくず」ではなく「削り華」と呼んでいます)や端材が目に付きました。これなら加工できるのではと、削り華でつくる木のお花「はなこもの」や、木の素材感を生かした「きまこもの」を作成しました。
 削り華の作品は、結婚式でのブーケや髪飾り、ブートニア、テーブル装花などとしてご依頼いただいたことを機に、広く知られるようになりました。生花とは違って枯れるものではないので、色の変化も楽しみながら、長く飾ることができます。すべて私のオリジナルで手づくりのため、みんな顔が違います。マルシェなど出展したときには、1本売りをしますので、皆さんにお好みの花をじっくり選んで購入いただいています。

今が最高、と思って

 特別に趣味と呼べるものはありません。ものづくりは好きなので、つい作品の制作に没頭してしまうのですが、家族との他愛のない会話が息抜きとなっています。現在は夫と3人の娘、義父との6人暮らしです。もうすぐ結婚20周年を迎えます。新婚旅行で行った北海道に、今度は家族で出かけたいと思っています。
 結婚した時、子どもが生まれた時、子どもたちの手が離れて、自分の好きなように活動できる今、その時その時が最高の幸せです。仕事を楽しみ、家事や子育てを楽しみ、いつも"今"が最高だと思えています。
 "今"を楽しむには、家族の理解も欠かせないので、家族には「こうなったらいいな」「こうしていきたいな」と、少し先の希望も伝えるようにしています。

木と人がもっと近くに

 ひとつに集中して全力を注ぎたい性格で、入り込んでしまうと、他が疎かになってしまうところがあります。家業をはじめ、kisigoto関連のワークショップやイベント出展、ぎふ木育サポーターとしての活動、家事など、いろいろな自分がいるので、バランスをとるのが難しいと感じています。
 ぎふ木育サポーターも、養成講座を受講後は「ぎふ木遊館」でボランティア活動をしたり、講師を務めたりしていましたが、最近は家業と地域活動などで日程調整が難しくなっています。
 木と人が共存できるような、自然の恵みを取り入れた暮らしをご提案していきたいと思っています。kisigotoの商品から、山や森で生きていたときの姿がイメージできるよう心がけたいです。私が見ている風景や、木材見本や葉っぱなどのリアルを通して、木や自然と生きている事を感じとっていただきたいです。木から人へ、人から人へ。