多治見市の佐藤逸子さんはグラフィックデザイナーから消費生活相談員に転身という異色の経歴を経て、現在は司法書士として事務所を構え活動しています。若い頃に繰り返した失敗から反省して勉強を始め、身に着けた知識で同じようにトラブルで悩む相談者に寄り添い、さらに差し伸べる手を広げようと今も学び続けています。
自分の失敗を他者のために活かす
若い頃の私は買い物でたびたび失敗していました。軽い気持ちで契約してあとから後悔することがあり、親に相談してクーリングオフするなどその都度解決してきました。しかし、これではいけないと思い消費者トラブルについて学ぶと同時に、消費生活専門相談員という資格の取得を目指しました。この資格は行政の消費生活センターで働くことを前提とし、事業者と消費者の間に入って契約トラブルを解決するためのものです。取得を目指した理由は、自分自身を反面教師として同じトラブルに巻き込まれる人を減らしたいという私の思いを実現するのに最適な資格だと思ったからです。
当時は会社を辞めフリーランスのグラフィックデザイナーをしていたので、仕事をしながらでも試験勉強に時間を割くことができました。そして2009年1月、無事に資格を取得しました。
自分を高めるために学び続ける
取得した資格を活かしたいと思い、デザインの仕事を続けながら働き先を探しました。当時はまだ消費者庁ができたばかりで、東濃・中濃の各市町村には消費生活センターが少なく、募集もしていませんでした。そこで自分から売り込みに回り、最初は可児市役所、次に多治見市役所から声をかけていただきました。その後、東濃地域の消費生活センター立ち上げにスタートから参加し、約15年間相談員として働くことができたのは良い経験になりました。
主な相談内容として、高齢者は、訪問販売、リフォーム、ネット通販、振り込み詐欺が多く、子どもは、ゲームの高額課金、その他、多重債務の相談もありました。基本的には必要な手続き等の助言やバックアップを行うのですが、時には業者との間に入って斡旋したり、内容によっては弁護士を紹介したり、支援が必要な障がい者や生活困窮者の場合は関連する行政機関等と連携することもあります。
時間をかけて相談者の話を聞いていると、相談の目的から段々と話が広がり、その結果なぜトラブルが起きたのか原因が見えてくることがあります。トラブルが起きた背景にまで気付くことができれば、目の前のトラブルを解決するだけでなく、再発防止にもつながります。相談者の話に真摯に耳を傾け、心の内を聞き出すことがとても大切だと思います。
世の中の変化や技術の進歩に伴い、新しい手口も出てきますし、トラブルの内容もどんどん新しくなるので、相談者から逆に教えて頂くこともありました。また、次々と出てくる支払い方法の勉強のために、実際に何種類もの決済手段を使ってみたりもしました。
上へ上へと駆け上がる
自分が出来ることに限界があるのが悔しくて、勉強や経験で日々アップデートに努めてきました。2016年1月には国家資格の消費生活相談員資格を取得。この資格が無くても今まで通り仕事はできるのですが、持っていれば国家資格保有者という立場になり自信にもつながると思い受験しました。
さらに自分ができることの幅を広げたい、お手伝いできることを増やしたいと考え、今度は司法書士の勉強を始めました。司法書士であれば法的な面からも助言ができますし、もし資格が取れなくても勉強したことは今の仕事に活かせると考え、通信教育で勉強を始めました。仕事と家事・育児、さらに勉強が加わって忙しい毎日が続きましたが、年1回実施される試験を毎年受け続けて6年がかりでやっと合格。翌年の春には消費生活相談員を辞め、研修期間を経て自分の事務所を開設しました。
気持ちに寄り添う大切さ
当初の希望通りの結論とならなくても、相談にみえた方が「やり切った、これで気持ちが切り替えられる」と納得される、結果に持って行けたときが一番嬉しいですし、それこそがこの仕事の魅力だと思います。
あの人に相談すればきっと何とかしてくれる、そうなりたくて日々全力で走り続けています。


