沼波貴恵さんは、大工である父の影響で建設業に憧れ、工業高校卒業後迷うことなく建設業の世界へ。現場監督として男性と肩を並べキャリアを積みながら、建設業界で女性が働きやすい環境づくりの必要性や建設業の魅力と働きがい、後進の育成のための情報発信を推進。女性技術者が活躍できる職場を目指し活動しています。
あこがれの建設業
この業界に関わるきっかけは大工である父の影響が大きいです。子どものときから建築は身近で興味のある仕事でした。時が経っても自分で建てた建物は町に残っていて、父の「これは俺が建てたんだ」という言葉を聞くうち、将来建設関係の仕事に就きたいという気持ちが芽生えました。工業高校の建築科へ進学を決めましたが、そういった環境でしたので両親とも私の進路希望を受け入れてくれたのはありがたかったです。自分の興味のあることですから夢中で勉強し、大学卒業後にTSUCHIYA株式会社、当時の土屋組へ入社し現在に至ります。
現場監督の面白さ
最初から現場監督がやりたかったので、入社1年目から新築現場に入らせてもらい、作業所の所長や先輩に付いて、何もわからない状態から教えてもらいながら、場数を増やしていきました。以来ずっと現場監督を任せてもらっています。現在は新築ではなく、工場の改修などを担当しています。見積もりに始まりお客様との打ち合わせ、現場の管理、職人に払う賃金の請求書業務など、ひとつの案件に関わるすべてを担っています。施主の希望に沿うために、細かいレイアウトの変更もありますから、しょっちゅう現場には出ています。
工事はスピーディーに、スケジュールやお金のことなどはお客様の都合に合わせて、進めていくので、大変なことのほうが多いですが、感謝をされるとよかったなと思います。新人のころ、新築の現場に
関わっていたときは、建物が出来上がると嬉しかったですし、足場をばらしたときの感動がありましたが、現在は現場が工場ですので、無事に終わってよかったという安堵のほうが大きいです。
工場で製造をしている横での工事作業もありますので、仕上がったあとは、次の現場も無事に終わらせようという緊張感をもって向き合っています。
女性も働きやすく
現場のほか、女性専門委員会の委員長にも就かせていただいて、その会合などもあり日々忙しくしています。女性はもちろん、若い世代に、どうしたら建設業界に来てもらえるのだろうという意見交換会を活発に交わしています。いまどきの若い子は頭の切りかえが早いので、いったん仕事をしてみて、やはりイメージが違うなとなると簡単に離れていってしまう点をどうにかしたいです。
現場監督だけではなく、左官屋さん、大工さん、いろいろな業種の高齢化が進んでいて、人手不足が深刻化しており、建設業は大丈夫だろうかという心配があります。建築業界も進化していかなければならないですし、DX化もすすめつつあり、変革の時期に来ています。そんな中での人材確保はなかなか難しいテーマですが、各地の女性委員会と交流しながら、若手や女性技術者を増やすためにどうすればいいかみんなで模索を続けています。
この業界に入って17年ぐらいになりますが、私が入った当時は、今ほど女性が働く環境ではなく、工業高校を卒業し進路を決めるときも、女性の働く場所はないときっぱりと言われた時代でした。女性の意見が通りにくいとか、職人さんに言い負けてしまうということもありましたが、時を経て、いまは更衣室や専用トイレを作ろうとか、女性委員会など、フューチャーされる場が増えてきた実感はあります。職人さんはベテランの年配の方が多くて、現場1年生のときは泣いてしまうこともありましたが、人生の経験値を積んで、コミュニケーションは大切だと感じるようになりました。いまは、職人さんと仲良くなって、自分とは違う専門的な仕事の話や自分の知らない技術について教えてもらうのがとても楽しく、この仕事の魅力のひとつと思えるようになりました。
体を大切に、生涯現役
父は72歳になりますが、まだ現役の大工で、お客様からご指名も入るらしく、今でも楽しく元気に腕をふるっています。父の姿を長年見てきているからか、母も私の仕事について応援をしてくれています。建築業界はきついと思われがちですが、土日も休めますし、余裕のある時期は有給休暇もとれますので、休みの日はとにかく体をゆっくり休ませたり、推しのDVDやYouTubeを観たり、旅行に出かけたりもします。遊びに出かけた先で工事現場があるとつい見入ってしまうこともありますが、頭を切り替えて休暇を楽しんでいます。
これからの私たちが頑張るべきことは、今の小学生、中学生が建築や土木、建設業に目を向けてくれるような、また、その親御さんたちも引き込み、建設業って面白いと感じてもらえるようなことだと思っています。
現場管理をする女性は増えてほしいですが、それ以外にも、現場だけではなく設計や見積もりなど、いろいろな業種があるということや、いろいろな人の手を借りて建物や道路が出来ていくということも発信していきたいです。
私自身、健康が気になるときもありますが、体が持つ限りこの仕事を続けたい、ずっと現役で現場に立ちたい、現場ひとすじでやっていけたらというのが目標です。自分が好きでやりたいと思ったことをやって生きてきましたから、これからも自分の感覚を大切にしていこうと思います。


