前平美由紀さんは、保育士として働いていた山県市の子育て支援センターで出会った人たちと、自ら考え共に育ち合える場所として、子どもからお年寄りまで地域の人たちが集まり、交流することができる子ども食堂(地域食堂)「にこぺこぐう」を立ち上げました。地元産の野菜を使った体にやさしい料理を提供し、地域の人たちの協力を得ながら多くの人の拠り所となる居場所を支えています。
皆と楽しく暮らしたい
静岡県の磐田市に生まれ育ち、平成9年に各務原市出身の夫と出会ってご縁をいただき岐阜県山県市の美山に移住しました。美山には親戚も友人もなかったのですが、地元の人たちがとても友好的で優しく迎えてくれて、皆さんの助けを得ながら、家族と心豊かに暮らすことができました。
子どもが保育園にあがる頃、保育士として山県市の子育て支援センターに勤務となり、6年ほど働いていましたが、そこで出会った皆さんが良い人ばかりで、歳を重ねても一緒に育ち合い、みんなと繋がって生きていきたいと強く思うようになりました。公務員を辞め、親子みんなで公園に行ったり、ご飯を食べたり、クリスマス会をしたりという、地域の親子活動を14年前に始めました。当時は特定の拠点もなく、あちこち転々としていましたが、意気投合した仲間とともに、地域の自主団体「にこぺこぐう」を立ち上げることになりました。「にこ」は、活動する・遊ぶ・学ぶ。「ぺこ」はお腹がすいたら、みんなで同じ釜の飯を食べる。「ぐう」は、寝るだけではなく、心が休める場があること。それで「にこぺこぐう」要は、くうねるあそぶということなのですが、これは人間の基本的な暮らしであり、ひとつでも欠けると、ちょっと元気がなくなったり心身が辛くなったりするので、生きていくのに大切なことだと思います。
皆が笑いあえる環境を
コロナ禍でこれまでの日常生活が制限され、買い物や公園に外出もしにくい状況になり、元気な子どもたちが自由に遊べる場所を失いました。私ができることはなんだろう、行き場はどこだろうと考えた時、我が家の周りには山がいっぱいだから、元気な子たちは山歩きや散歩をすれば、心も晴れる。おにぎり持参で山に登るのもいい、それならたくさんの人が楽しめるのではないか。新型コロナウイルス感染症がきっかけで、人との繋がりが絶たれる寂しさを意識するようになりました。そこで、地域の人が集まれる居場所「にこぺこぐう食堂」を作りたいと市に掛け合い、さまざまな人のご縁と力を借りて古民家での活動が始まりました。
食堂は毎月第一第三水曜日の2回開いています。それ以外では、私の大切な活動「幸せのわけっこ家」があります。女性が妊娠、出産を経て我が子との暮らしが始まった時、頼れる人、どんなに些細なことでもわからない事を聞ける人がそばにいたら、どんなに安心して暮らすことが出来るだろう。そしてその安心感が親子の幸せに繋がることは私自身が心底実感してきたことでした。ならば、私がみんなそばで共に聴き考え行動する人になろう、そう考えたのです。
親子の絆をより深めるふれあい(わらべうた・ベビーマッサージ)、食べることの大切さ(離乳食・四季折々の日本の野菜と調理の仕方・調味料)、五感いっぱいにいろんな体験をみんなで楽しむおやこ園など、みんなの知りたい、学びたいに寄り添う活動は多岐に及びます。
食材の工夫
「にこぺこぐう」では地域の人々が梅干しや柚子を提供してくれて、共同で保存食を作ります。みんながやっていると自分もやりたくなる、これがみんなで育ち合うということ。各々の感性感覚で自らの気持ちに従って動く、この積み重ねが私たちの暮らしをより豊かにすると思っています。
古民家にこぺこぐうには、地元農家の好意でいろいろな野菜が届きます。材料に合わせてメニューを決めるので、大変でしょうとみんな言うのですが、私はそれらを使って、どんな食事を作ろうかなと考えるのが好きです。調味料はシンプルに塩と味噌と醤油ときび糖。そして鉄板メニューは釜戸炊きご飯と重ね煮のお味噌汁です。
重ね煮という調理法は塩と野菜などの具を、陰陽の法則に合わせて重ね蒸す調理法です。東洋では、すべての食材に対して陰と陽という考え方があります。例えば、椎茸は上に向かってグーっと育ち、玉ねぎ、や人参は土の下にグーっと入っていく、そういった食物の津からが鍋の中で対流が生じ、それぞの食材が調和し旨みいっぱいの味噌汁になります。
釜戸の炭の香りがする古民家で食べるご飯とお味噌汁は絶品です。おかわりも自由、全ての食材に感謝して美味しくいただいています。
みんなの居場所
昔むかし、子ども食堂が始まったきっかけは貧困家庭を対象としたものであったと知りました。それが今も子ども食堂のイメージとして根強く印象づいていることを感じています。
「にこぺこぐう」は誰でも来たい人が集まり、みんなで温かい食事や暮らしをする場として存在していきたいと考えています。田舎には一人暮らしのお年寄りも多いので「みんなで食べよう」とお招きしています。そうやって子どもからお年寄りまでが集まることで、自然に助け合う環境が整ってきました。現在は、子ども食堂と呼ぶより地域食堂として馴染んでいるように思います。食堂の運営は、子どもたちの食事を無料支援できるように、大人の方の寄付を募っています。また、市の子ども食堂補助金による支援もいただいています。
今後、これらの活動とともに、私とみんなのやりたい事を叶えるワークショップやお話しの会など元気に展開していきたいです。
座右の銘は、「元気があれば何でも出来る」、くうねるあそぶの「にこぺこぐう」。みんなが笑える未来を想像しながら今をとことん楽しんでいきたいと思います。


