岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

制服のかっこよさにひかれ
入団した消防団
今ではふるさとを愛する気持ちが優先
副団長として活動する今
女性たちに後に続いてほしい


飛騨市消防団 副団長
田口 郁子(たぐち いくこ)さん(飛騨市)

【2025年10月15日更新】

田口郁子さんは平成10年4月1日に旧古川町消防団に女性消防団員として入団、以来26年の永きにわたり積極的に消防業務に尽くしています。令和3年4月から副団長として活躍し、その活動が認められ、令和6年春の褒章を受章。広い知識と豊かな経験に基づき、自ら率先して消防の知識、技術の向上に努めるとともに、各分団への教育訓練等に力を注ぐなど、その優れた実行力と指導力を発揮し、消防団組織の活動や運営に日夜献身的に尽力しています。

古川に女性団員誕生
 生まれも育ちも飛騨古川。地元で結婚し育児を経て、下の子が小学校高学年になるころ、古川町で女性消防団員の募集がありました。その時期、全国の消防団の1/3くらいを女性で構成したいという国の考えがあったと聞きました。興味はあったけれどなかなか入団する一歩が踏み出せずいたところ、たまたま知人から一緒に入らないかと誘われたのがきっかけでした。
興味を持った理由も、消防の制服がかっこよかったのもありますが、女性が消防団でどのような活動をするのだろうと思ったし、何か役立ちたいとも思ったから。平成10年の入団後、班長、部長、副分団長、分団長、副団長として役職を拝命し、気づけば26年経っていました。当時、女性20人ほどが入団をし、その頃は20代の独身女性もいましたが、現在は子育ても一段落した主婦層が多く、女性消防団員は24人。私はその一段上の本部に所属し、副団長である私以外全員が男性という環境で活動をしています。

幅広い消防団の業務
団員が消火や捜索活動のため現場に赴いても、通常、女性消防団は現場に行くことはありません。私は本部の所属ですので、対策本部で団員の報告を受け、どこの場所に消防車を配置しているかなどの報告を取りまとめる業務をおこないます。災害の場合も対策本部での情報収集をする役割です。女性が本部に入る前例がなく、自分は何をすべきか悩んだこともありましたが、私にできることをしようと努めています。訓練を定期的に行わないと新しい団員はいざというとき対応ができないので、今年からは飛騨市の消防団が集まって実践的シミュレーションをしています。年に数回、火災地域を見立てて放水する模擬練習や、火災になった場合、消防車の位置やどこから放水するか、どこの川から水を上げるか、地図を見ながら机上訓練をしています。花火大会やお祭りの警備、新人の消防団員への講習を行います。また、飛騨市の防災訓練に参加し土嚢をつくったり、各企業での救命講習に消防職員とともにお手伝いに行って指導したりしています。女性団員は、幼稚園で紙芝居を使って予防啓発などにもかかわっています。男性団員のように現場作業がないかわりに、声がけなどソフト面のサポートは、女性団員ならではの仕事だと思います。制服の着用は町民にも安心感があるそうで、以前町内で火災がおこった際、近隣の安否確認作業で声をかけたらホッとしたと言われ、女性団員によるケアの必要性を感じました。
この活動の魅力は、おおげさかもしれませんが、自分たちがこの街を守っているという意識を高く持っていられることです。副団長として式典などで自分の号令で全団員が動いてくれる瞬間は爽快です。
その反面、周りが男性ばかりですので、女性ではできない事、わからない事が多々あると実感させられます。全国的に女性の団員も増えてきてはいますが、まだまだ男性社会かなと感じます。

思いがけなかった受賞
長年の活動が認められたとのことで、令和6年の春に藍綬褒章を受けると決まったときは、自宅に消防署の方が内定の知らせを届けにきまして、「え、私が!」というびっくりした気持ちでした。過去に先輩が受賞したのは知っていましたが、まさか私がいただくことになるとは思ってもみなかったです。他の受賞者の方々と一緒に皇居に呼ばれ、天皇陛下からお言葉を頂戴しました。しかも飛騨市の代表ということで大変名誉なすばらしい経験となりました。こうして消防団員として26年間活動がつづけられたのも家族の協力が一番だったと思います。
家族は、夫、実母、息子夫婦、孫が2人の四世代同居。実母ですので、遠慮なく子どもを任せて外に出ることが出来たのだと思います。孫が消防の道に進むかどうかはまだわかりませんが、ばあちゃんかっこいいと言ってもらっています。
本業は保育園で働いており、仕事と家事の両立で日々忙しくしているため、毎日そんなに気負わず過ごしていますが、防災に関してはやはり普段から意識しています。最近は自然災害も多いので、いつ地震がくるか不安に感じますし、そんなとき消防団として何が出来るだろうと色々考えます。幸い飛騨市は今のところ大きな事故や災害もなく、本当にありがたいです。
息抜きは、韓流のドラマを観ることと、応援している韓国の俳優さんのコンサートに行くこと。東京まで遠征もしました。それから、孫の成長を見守るのも毎日の楽しみです。

女性団員の活躍を願う
現在は消防団の副団長ですが、任期の交代が近づいています。さらに上の役職になったとすると、団員をまとめていかなければならず、責任について悩ましく考えることもあります。ただ、男性社会とはいえ女性の力は必要だと思います。女性分団の必要性をもっともっと周りに知っていただいて、女性分団が初期消火のやり方や災害の知識を住民の方に指導し、災害に強い町になればいいなと思っています。年に1回、全国女性消防団員活性化大会という会合が開催されるのですが、ほかの女性分団がどんな活動をしているのか、良いアイディアは見習って取り入れたり、情報交換したり、同じ仲間がたくさん集まるので、勉強になります。
女性分団から男性ばかりの本部に入ってほしいと言われたとき、前例がなかったので、誰にも相談もできず、とても悩みました。でも、やらないとわからないなと自分で思い至ったのです。やらずに後悔するよりやって後悔、失敗してもその失敗を糧にまたがんばればいいじゃないかと思い、本部への加入を決心しました。周りの仲間に引っぱってもらい今まで続けてこられましたが、これからさらに役職があがった時、男性ばかりの社会で女性が上に立つ大変さを想像しています。とはいえ、昔はありえなかったことを、今は女性でも役職に就けるということを私が実証したので、それに続く女性がどんどん出てきてほしいなとは思っています。