祖父母が設立し、ご両親が築き上げた会社を引き継ぎ、2024年夏に代表取締役に就任した田口薫さん。どの業界も人手不足に悩まされている現代の状況に対応すべく、シニア採用や外国人雇用、女性支援などに取り組み、人材を確保。誰もが働きやすい職場環境づくりを行うとともに、性別や職域にこだわらず、若手社員の人材育成に注力しています。
就職、結婚、離婚を経験した20代
大学進学で上京し、そのまま東京で就職しました。税理士になりたかったので税理士事務所で働いていましたが、24歳で結婚をして退職。その後、パートや派遣社員などを転々としていました。でもこのままではいけないと思い、正社員を目指して就職活動をしました。結婚をしていたため、面接では嫌なことを言われたりしましたが、IT企業に採用していただき役職をもらえるまでになりました。その後、行政書士の資格を持っていたことから、ご縁のあった方と共に事業を開業しました。ちなみに、その頃離婚もしました。
30代になり、東京商工会議所女性会に入会し、40〜50代の女性社長にたくさん出会いました。いろいろな話を聞かせていただき、そのときの話は後にとても影響しています。今になって「まさしくそうなんだ!」としみじみ思うこともあります。女性社長は怖そうなイメージですが、先輩と会話をすることは大切ですね。
数年手伝うつもりが取締役に
リーマンショックが起きた頃、家業に入っていた兄から「2〜3年手伝ってくれないか」と連絡がありました。36歳のときでしたね。兄の言葉通り数年だけのつもりだったのですが、その数年が経った頃、兄が辞めてしまったんです。え?私がやるの?と困惑しましたが、仕方がないと思い直し、東京には戻らないことを決めました。今の夫とまだ結婚前だったのですが、それを機に結婚し、数年後には岐阜に来てくれました。当時、夫は東京で特許に関わる仕事(弁理士事務所)をしていて、私が数年で東京に戻ってくると思っていたので、随分驚いていましたけどね。
そして、取締役を経て2024年7月に代表取締役になりました。父はまだ仕事ができるのですが、私から見るとしんどそうなんです。何かあってからでは遅いので、早いうちに継ぐことにしました。すると、会社に20個以上のランの花が届いたんです。こんなにもたくさんの人にお祝いされているんだと実感しましたし、気が引き締まりました。
シニア、外国人、女性、誰もが働きやすい職場に
弊社は、工作機械による精密機械部品の加工や、ロボットシステム、FAシステム製作などの業務を行う、いわゆる町工場です。弊社のような鉄工業だけでなく、今はどの業界も人手不足にあえいでいて、欲しい人材を確保できません。それに、働きたい人は性別や年齢に関わらず何かしら問題を抱えていて、働き方について悩んでいます。例えば、女性は出産や子育てなどライフイベントが多く、働く時間が限られています。また、男性が50代で子どもを授かった場合は、役職がついていても休みを増やさないといけないかもしれません。ほかにも、親の介護があったり、お孫さんの世話があったりと、何歳でも男性でも女性でも仕事とプライベートの間にある問題は、それぞれ事情が異なります。そうなったら、相互扶助しかない。会社のルールとして、法律で定められた基準内での対応ではありますが、個人の事情を受け入れ、一人ひとりが働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。
女性が多い職場ですが、結果としてそうなったに過ぎず、女性だけを支援しているわけではありません。シニアも採用しますし、外国人の雇用も行っています。シニアの方は真面目ですし、外国人の方は一生懸命働きます。文化が違うのでときどきびっくりすることもありますけどね。「川のカエルは食べていいの?」とか。
企業価値を高めるために新事業を
いずれは自分の手から会社が離れます。つまり、事業継承が必ず発生するので、そのときのために企業価値を上げておく必要があると思っています。そのために、製造業だけでなくサービス業にも取り組もうと考えています。また、ロボットを"使う"ことにもフォーカスを当て、2016年に「RTC東海」という新事業を立ち上げました。産業用ロボットに関する安全講習会の実施や、ロボット導入の支援事業を行っています。人手不足を解消するには、産業用ロボットの導入は欠かせません。弊社のロボット活用のノウハウを活かしてロボットシステムを導入していただき、ものづくり企業の生産性が向上することを願っています。また、若い世代にロボットに興味を持ってもらい将来的に業界で活躍してほしいので、高校で特別授業を行ったり、「ロボットアイデア甲子園」を開催したりしています。
人生いろいろなことがどんどん起こりますが、振り返っている時間はありません。起きてしまったことを後悔するのではなく、今何をすべきか、そしてその先にどうしたらいいのかを考える方が重要です。じゃないと人生楽しくないじゃないですか。楽しく生きなきゃ損ですから。

























