岐阜西濃でガソリンスタンドを中心に石油関連事業を展開する岐菱商事株式会社。祖父が興したその会社を父親から引き継いだ3代目として代表取締役を務める長谷部綾子さんは、西濃地域ではまだまだ少ない女性事業継承者です。跡取りとして家業を引き継ぐ女性に光を当て、跡を継ぐのは長男という固定観念を変えようと活動を続けています。
考えてもいなかった道へ
祖父や父が会社を経営している事は知っていましたが、会社と自宅は別々なのであまり実感はありませんでした。私は3姉妹の真ん中で、3人の間でも家の中でも誰が会社を継ぐのかという話が出た事も無く、大学卒業後は地元の金融機関に就職しました。
数年後に退職した私は、父と当時会長だった祖父に言われるがまま岐菱商事に入社しました。跡を継がせるような言葉はありませんでしたし、仕事も他の社員と変わらない内容でしたが、一定のタイミングで昇格していく様子から、周りとは違う扱いを受けている事は理解していました。やがて少しずつ「私しかいないんだ」と思うようになってきたある時、グループ会社の社長に任命されました。
社長が背負う責任
グループ会社とはいえ代表取締役になった事で、私の意識に責任と自覚という変化が起きました。父からもいずれ退任して私と交代するつもりだと言われた事で、私は覚悟を決めました。学生時代は自分が会社を継ぐとは考えていなかったので、大学で経営を学んだ訳でもなく同業他社で経験を積むという事もしていません。あまり数字に強く無かったので、遅ればせながら簿記の勉強を始め、経営に関する研修会にも参加するよう努めました。人脈の構築も必要だと考え、地域の青年重役会への入会や、銀行が経営者向けに行う講演会や交流会に参加するなど、地域の経営者との繋がりを広げました。
会社の業務は在宅勤務や自動化では対応できない内容が多いので、人手の確保が重要です。そのためには福利厚生など制度の充実と併せて、人件費を確保する売り上げが必要になってきます。どうすれば売り上げを伸ばせるか社員からもアイデアを募り、店頭キャンペーンやSNSの導入など様々な取り組みを行っていますが、車の燃費向上や運転者人口の減少でガソリンの消費量は減り続けているため、来店目的を給油だけでなく多様化できればと模索しています。
女性事業継承者の悩み
経営者の集まりでは圧倒的に男性が多く、名前に女性部と付く集まりでも参加者の多くは経営者ではなく社長夫人です。また、女性起業家には注目が集まりがちですが、家業を継いだ女性は親の会社に入っただけという評価しか受けていないと感じます。自己紹介をすると必ず「ああ、○○さんとこの娘さんか」「男の兄弟はいないの?」「ご主人は何をしている人?」などと聞かれます。女性自身も自分が家業を継ぐとは考えず、親も女の子に継いでくれとは言えない、そんな意識を変えていけば跡継ぎがいなくて廃業という会社も減るのではないでしょうか。
市も女性の創業支援に力を入れていて女性起業家の集まりなども多く、創業者はそういった場で人の繋がりを作る機会が多いのですが、事業継承者にはそのような機会があまりありません。そこで大垣ビジネスサポートセンターの相談員を引き受けて事業継承に関する相談や悩みを聞いたり、女性の経営者、個人事業主、事業継承者、及びそれらを目指す人たちのバックアップやネットワークを構築するEclat+(エクラプラス)という会の副代表をしたりして、女性の事業継承者にもっと光が当たるようにと活動しています。
笑顔の社長、笑顔のお母さん
休日は家族で旅行や買い物に出かけたり、友人とライブに行ったりしています。知らない場所へ行く、知らなかった情報を得る、それらが刺激となり新しいアイデアが生まれる事もあります。他の家のお母さんと比べれば家に居る時間は短いし、仕事と家事の両立もできていないけれど、子どもと過ごすための時間のやりくりは頑張っています。
いつも心にある言葉は「笑顔に勝る化粧なし」です。社長として会社にいる時も、お母さんとして家にいる時も、いつでもどこでも楽しく笑顔でいるよう心掛けています。




























