椙﨑伊寿美さんは、看護師として20年以上勤務。在宅医療・在宅介護の割合が増加している現在、保険だけでは補えない部分があるのではないか、本人はもちろん家族の負担を少しでも軽減し、みんなが笑顔で過ごすことができる環境が必要だと考え、自分でやってみよう!と会社を設立。経験豊富な看護師仲間の方とともに活動中。その他、まちの保健室活動、キッズサポートにも尽力しています。
生きる希望を叶えたい
看護師としてのキャリアは20年以上になります。高山市内の総合病院や施設で勤務し、飛騨市民病院を退職後、起業のための勉強を兼ねて名古屋市や岐阜市で派遣看護師として働き、その後起業に至りました。病院で勤務しているとき、受診や旅行の付き添いは保険制度を使うと一日に利用できる時間が限られる、介護保険は介護度がついていないと使えない等、介護保険や医療保険ではできないことが結構あることを知りました。そのはざまで苦しんでいる人を何度も目の当たりにしました。看護師として何かできることがないかと考え、保険外対応なら自由度が広がるのでは、と思ったのです。医師からの指示書が頂ければ医療処置もできる、私たちのような看護師や介護福祉士といった有資格者がサポートするので安心して行きたいところへ行きましょう、という訪問看護の保険外版です。体は不自由でも心は元気、という高齢者の方との外出は命を預かる責任がありますが、でも行きたいところをあきらめてほしくない、その方の生きる希望を叶えたいと強く思っています。
開業のきっかけは、病院で勤務しているとき入院していたおばあちゃんとの出会いです。余命宣告があったため、墓じまいや家の片付けなどがしたかったのに、家族もおらず、付き添いのサポートをしてくれる人もいなくて家に帰れないまま亡くなりました。なんとか出来なかったのかなあと今でも一緒に撮った写真を大切にしています。
出会いに感謝の毎日
現在は登録看護師が13人、介護士が3人、顧問医師、歯科衛生士、理学療法士が1人ずつ、処置に特化した認定看護師が2人います。Instagramで募集したら、ヨガや呼吸法、足のケア、グリーフケアなど、専門的な分野を得意とするスタッフが地域で働きたいとこんなに集まってくれて私もびっくりしました。
活動は飛騨高山中心で、いまは3つの事業を展開しています。「サポートサービス COME TRUE」のほか、病児保育やベビーシッター業務として「キッズサポート かむ・とぅるー」、ボランティアで看護師が出向いて、それぞれの得意なことを体験してもらうという「まちの保健室」をつくりました。
私はすべての事業の代表という形で関わっています。利用者さんとの打ち合わせをはじめ、現場にも赴きます。先日は介護士をしているお笑い芸人を招いた講演会の企画もしましたし、小学校で介護の講座を行う予定もあります。子どもたちに、介護を身近に感じてほしい、抵抗感をなくしてほしいという意味を込めて話をしようと思っています。これからの時代、みんなが関わらなくてはならない介護に関して、私たちが出来ることがあればお手伝いしたいという思いからの活動です。飛騨高山は広いので移動も大きいのですが、依頼があればすぐ飛んでいきます。
今は、人とのつながりが出来ることがとても嬉しいです。スタッフはもちろん、利用者さん、施設の方など、出会いからの学びがすごくたくさんあるので楽しいですし、一番は利用者さんから感謝されるとやっていてよかったと感じます。そんなつもりもありませんが、周囲から、楽しそうだねとかイキイキしていると言われる機会もちょくちょく。自分が楽しくないとそんなふうに見えないと思いますし、自分でこうして事業を立ち上げてよかったなと思います。
今まで経営というものをしたことがなく大変ですが、商工会や人の助けを借りてなんとかやれています。講演会というイベントを開催するのも夢の一つでしたので、それが周りのみんなのおかげで叶いました。支えてくれる人に恵まれ、感謝しつつこれからもやりたいことがたくさんあります。
家族の応援あってこそ
現在は高校生の次女と猫7匹と犬1匹と暮らしています。娘とは、「お母さんは事業所の代表なんだからちゃんとして」と化粧のことなどうるさく言われたりもしますが、仲が良くて、起業してからのほうが会話も増えました。将来看護師になるかはわからないけれど、イベントの受付や、荷物が多い移動介助なども手伝ってくれますし、今は名古屋で働いている息子も、この仕事を始めようとする後押しをしてくれました。いろいろと迷いがあったとき、「お母さんがやるなら俺もがんばって手伝うよ、いいことだしやればいいじゃん」と言ってくれて、その後押しがあったからこそ決心がついたのです。外で看護師として働いているときより、子どもたちといられる時間も増え、なおかつ協力的なのもありがたく、母親としてもよかったと思っています。
公私両立のコツは、休めるときは休むことと、完璧主義にならないこと。仕事に関してはそういうわけにはいかないけど、プライベートにおいては「こうしなければいけない」「こうでなければいけない」と思うと苦しくなってしまうので、その考えをやめたら楽になりました。あとは好奇心というか、なんでもチャレンジ精神でやれることはやってみようというマインドでやっています。
笑顔で皆が集える場を
今住んでいるこの家を改装してみんなが集える場所を作りたいというのが最終的な夢です。誰でも好きな時に来てフラっと帰れるような、デイサービスに行けない認知症の人でもここなら来られるという雰囲気の、大人も子どもも集まれる場ができればと思っています。あとは、この事業所を法人化して会社にしたい。スタッフにも安心して働いてもらえる会社を作るのが大きな目標です。地域のお年寄りは増えているのに、施設のスタッフが減っていっているこの地方の実情を何とかするため、行政と組んで何かできないか。そしてもっと多くの人に知ってもらって必要な人にサービスを届けたいです。
単純ですが、昔から好きな言葉が「笑顔」。だからうちのモットーも「いつも笑顔と安心を」にしています。笑顔って癒されるし、良い気分の時でないと笑顔は出ない。スタッフも利用者さんもみんなが笑顔になれることを目指して、この事業所を運営しています。




























