岐阜で活躍する女性の紹介
〜岐阜で活躍する女性からあなたへのメッセージ〜

生まれ育った下呂の地で
衰退した養蚕業を循環型事業として復活
新たな雇用を生み出すとともに
働きやすい環境づくりに取り組んでいます


株式会社マテリアル東海 取締役
丁 澄恵(てい すみえ)さん(下呂市)

【2025年10月10日更新】

丁澄恵さんは、結婚後、夫の家業である株式会社マテリアル東海に入社。「働きやすい環境づくり」に取り組み、社員の皆さんからの意見や要望を積極的に取り入れ、社内の橋渡し役を担っています。また、養蚕事業『ひだまゆ』を立ち上げ、飼育から出荷まで携わり、現在はシルク製品の開発リーダーとして国内外へ視察・交渉に出向いています。その他、居住支援法人の認可取得に取り組み、要支援者への支援活動を積極的に行うなど幅広く活躍しています。

働きやすい環境づくり
地元の高校を卒業した後は美容専門学校に通い、高山のエステサロンに就職しました。高校時代に出会った夫との結婚を機に夫の両親が経営している会社に入り、数年前より取締役をさせてもらうことになりました。美容業界とはまったく違う分野の仕事でしたが、なんでもチャレンジしたいと思い、迷いはありませんでした。
業務は主に総務兼経理を担当し、特に「働きやすい環境づくり」に力を入れています。社員の皆さんの中には小さいお子さんがいる方もみえ、繁忙期等を考慮しながら有給休暇を取りやすくする他、社内でのヒアリングを通して、バーベキューや社員旅行などを企画・実施しています。ご家族も楽しめるイベントを開催し、社内の出来事や行事などを知っていただくため、年4回広報紙の発行を始めました。取り組みを通じて、社員の皆さんだけでなく、ご家族にも「勤めやすい会社だな」と思っていただけたらとても嬉しく思います。
 
養蚕事業の立ち上げから今
養蚕事業『ひだまゆ』を立ち上げるきっかけは「地域で衰退した産業を、仕事として蘇らせることはできないか」という夫との何気ない会話でした。そんな時、地元の方から「荒れ果てた農地をどうにかしてほしい」というご相談をいただきお話を伺うと、その農地がかつては桑園であったことが分かったのです。養蚕事業に取り組んでみようと思う大きな転機となりました。
 下呂では昔どの家も養蚕を行っており、「この地区はこの作業」と地区によってそれぞれ役割分担がありました。下呂は飼育を主として、繭を他県にも送っていたようです。しかし今では衰退し、現在市内で飼育しているところは弊社1軒、岐阜県内でも10軒ほどしかありません。現状を知るにつれ、この地域で養蚕を復活させ様々な形で仕事としてできれば、新しい雇用も生まれるのではないかと思うようになりました。
 夫の父である弊社会長をはじめ、役員も新しい事業を始めることにとても意欲的であり、前向きに養蚕事業を立ち上げることができました。私たちは、「誰もやらない、やれないことをする」という考え方を創業時から大切にしています。そこで、養蚕を"私たちだからできる事業"として考え、衰退産業の復活・循環型社会づくり・農福連携の実現を目指しました。お蚕さまは桑しか食べず、桑園の堆肥がとても重要になりますが、弊社では大黒柱である産業廃棄物処理事業の中で企業様から排出される有機性の汚泥等を処理して堆肥を生み出すことが可能です。また、堆肥の原料となる廃棄物の処理工場での作業・桑畑の管理・お蚕さまの飼育など多くの作業を社会福祉法人さくらの花に所属する障がい者の皆さんに携わっていただくことができ、「廃棄物の再利用と福祉的な雇用の創出をマッチングさせ、養蚕事業の復活に繋げる」という方法が私たちの強みを最大限に生かした形だと考えました。
事業開始当時は全く養蚕の経験もなく、お蚕さまの入手先や飼育方法なども分からない私たちでしたが、岐阜県蚕糸協会様、大日本蚕糸会様、下呂市の養蚕の専門家の先生方にも飼育の仕方などを教わり、今に至っています。今春では13万頭を飼育しています。(かつて日本の一大産業であった製糸業を支えたお蚕さまは、1匹2匹でなく、1頭2頭と数えます。)温度管理・湿度管理が非常に難しい繊細な生き物のため、飼育がとても大変であり、この6年間でたくさんの失敗をしました。そこから検証をし、さまざまな経験を経て、今、安定的に飼育・出荷できるようになりました。働いている障がい者の皆さんは、お蚕様に触れて「可愛い。可愛い。」と作業を頑張ってくださり、飼育から出荷までを携わることで達成感を感じてくれています。おかげさまで、私たちの養蚕所は岐阜県一の出荷量になりました。
 また、休日は私の子どもたちも飼育の手伝いをしてくれています。決して長生きできる生き物ではないお蚕さまと触れ合う時間は、子どもたちにとってかけがえのない「命の教育」にもなっていると感じています。

無理せず人に頼ること
私は人に任せるよりも自分でやった方が早いと思ってしまうタイプで、1人で溜め込んでしまうところがあります。「自分が頑張ればいい」という考えでキャパオーバーになっていたにもかかわらず、無理をしてメンタルが潰れそうになってしまったことがあり、「とにかく話を聞いてもらい、人に頼る」ということを学びました。「頼れる人に任せて、ちょっと軽くしていこう。」というように。家でも仕事の話をするのは日常茶飯事で、子どももそれをよく理解してくれています。一緒に仕事をしている夫に話すとすっきりしますし、思いや考えを共有できる気がしています。
子育てにおいても同様で、仕事で留守にすることが多く、愛知県や東京、京都、海外への出張もあるので、義理の両親に頼るようにしています。
ただ、子どもが寂しい思いをしないように、夫と話した上で、家にいる時は子どもファーストです。息子が書道を習っているのですが、私も昔から字が上手くなりたいと思っていたので、一緒にやってみるなど、勉強や苦手なことにはできる限り向き合おうと意識しています。子どもが習い事に行きたくないという時は、私も一緒に行うことで、子どもを一人ぼっちにさせない育児を心がけています。

「人生は一度きり」
国内外問わず、行ったことのない地域へ旅行するのが好きです。仕事のことが常に頭にあり、考え方や生き方などに悩むこともありますが、旅をすると新しい刺激がもらえ、新鮮な気持ちで現実と向き合えるようになり、楽しい趣味のひとつになっています。
今後は、私たちの会社のイメージを変えていくのが目標です。廃棄物を扱っていることに対し、「ゴミを燃やすから有害ガスが出るのではないか」等の印象をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、丁寧に真摯に業務に取り組んでいくことでイメージを払拭し、『なくてはならない会社』であり続けたいです。そして私たちの『ひだまゆ』の取り組みを広く知ってもらい、国内外で貴重な文化・産業として認知されたら良いなと願っています。
そんな私の座右の銘は「人生は一度きり」。後悔のないように、自分にできそうなことは何でもチャレンジしていけたらと思っています。