鈴木明美さんは美濃加茂市出身。鍼灸マッサージの国家資格を取得し名古屋市のクリニックで勤務。クリニック内でのリハビリ、自費での鍼灸治療、往診の経験をもとに患者の生活が少しでも楽になるようにお手伝いをしたいと、夫の出身である本巣市へ転居。開業。3人の息子の子育てをしながら、治療に通うことが難しい患者の元に往診も行い、地域の人々に愛される鍼灸師として飛びまわる毎日です。
Uターンして岐阜へ
小中学校6年間バレーボールをしており、運動後のケアにマッサージやストレッチを仲間同士でおこなっていました。家に帰るとおじいちゃんやおばあちゃんにもマッサージをして喜ばれ、小学生のころからずっと将来はマッサージ師になりたいと思っていました。
リラクゼーションのお店で働きはじめ、実際に患者様の体に触れましたが、そのとき悔しかったのは、目の前 で「痛い」「しんどい」と苦しんでいる人に対して、触ることはできても治すことができなかったこと。治療は資格を持たないと出来ないという壁にぶつかりました。絶対資格をとって治療家になると決意して、猛勉強の末国家資格を取得。バリバリと働きたかったので、患者様の多い名古屋のクリニック、のちに往診専門の会社に就職しました。寝たきりの方や半身麻痺の方のマッサージ、床ずれの患者様への接し方のほか、機能訓練や歩行介助などのリハビリも学ばせてもらえたことが、現在の仕事の大きな助けになりました。
名古屋で6年勤務し、その後結婚・出産を機に夫の生まれ故郷であった本巣市に転居しました。産後は、とにかく早く仕事に復帰したい、世間に置いていかれるような、手が鈍っていくような気がして焦りもあり、育児をしながら、大垣市の治療院で鍼灸マッサージ師として働きはじめました。当時は名古屋で仕事を続けるかとても迷いましたが、結果として人に恵まれ、岐阜を拠点にしてよかったです。
開業へ背中を押され
大垣で何年か治療させていただいた方に「あんたのこと待っとる」「あんたが一番ええんや」と言ってご贔屓にしてくださる患者様がいました。そのころ、主婦をしながらも一宮と大垣の治療院をかけもちしていたため、毎日目まぐるしい忙しさでした。患者様から、施術に来て欲しいと望まれても思うように応えられなくて、もどかしい思いをしている最中、その方が亡くなってしまいました。医療業界に関わっているとそういった経験もそれまで幾度となくありましたが、どうして希望に添えられなかったのだろう、そういった気持ちに応えたかった、という想いがずっと心の奥底にあり、同業の先生にも背中を押して頂き2024年1月に開業を叶えました。むすび治療院という名は「大きな木の幹がつながって育っていくように人の縁もつながって人が人を呼んでくれる、だから早く開業しなさい。」とその方が何度も仰って下さった言葉から名づけさせて頂きました。
現在、午前中は業務委託で寝たきりの方や来院できない方の往診を行い、午後からは予約制でむすび治療院にて患者様の痛みの治療や婦人科特化の治療を行っています。自分自身が不妊だった経験をふまえ、自分も悩んだからこそより遠回りしてほしくない、不妊治療や婦人科疾患の方に寄り添えるようにHFMA研修会の本科を修了しました。後々、病院との連携もしていけるような妊活栄養鍼灸師として専門家になり、一人でも多くの悩みに寄り添える鍼灸師になることが目標です。
広めたい、鍼灸の良さ
体が不調のときはまず病院に行かれる方がほとんどで、鍼灸院にいきなり来る方はほとんどいらっしゃいません。鍼やお灸と聞くと、痛いとか怖い、という印象をもつ未経験の方が多く、鍼灸を身近に感じてもらいにくい点が悩みです。刺さない鍼や、生後2か月からできる小児鍼もありますし、お灸も昔と違って台座に乗っていてやけどしにくい、柔らかい温かさのもの、子どもでもできるお灸など、思っているイメージよりずっと怖くなく、安心で安全なことが世間にあまり伝わっていないので残念です。鍼灸は心地の良い治療であることをもっと知っていただくにはどうしたらいいか、と考えています。
自分の力で回復していく体づくりというのが東洋医学の強みですから、薬を使う西洋医学と使い分けて患者様に合うものをどう選択していくか、痛い思いをしないで無理なく楽になれるように導くのがモットーなので、患者様に鍼やお灸をいろいろ試してもらい、患者様に合う施術方法を一緒に見つけていければと思っています。
感謝そして真心
自宅と治療院がつながっていますから、開業当時は、家の中で公私を切り替えるのは難しいのではないかと考えていました。今では、ぜったいに一人きりにならずに、人とつながりながら仕事をすることを意識しています。たくさんの人と関わること。夫や、子供の学校や幼稚園の先生の協力があったからこそずっと働くことができていて、同業の先生や大垣の治療院の社長にも開業の相談に乗ってもらいました。「公」も「私」も、そういう頼れる人を作っておくことが自分の公私両立のコツではないかと思います。
息抜きは、ママ友とのランチとおしゃべり。そしてほかの治療院に鍼やマッサージを受けにいくこともあります。自分の施術方法がベストだと思いたくないので、自分が鍼灸師であることは伝えて、半分は体の治療、半分は勉強の気持ちで施術を受け、情報収集し、先生と仲良くなって、その先生の良いところを取り入れています。
私は両親が共働きで、おじいちゃんとおばあちゃんに面倒をみてもらったので、子どもに笑顔で「おかえり」と言ってあげられる母になるのが夢でした。今はまだ学童に預かってもらっていますが、仕事と並行しながらも、自分がしてもらえなかったことを子どもにしてあげたいと思っています。その気持ちに加えて、鍼灸師になって16年ですが、いまだにとにかく治療が楽しくて、まだまだたくさんの人に施術をしていきたいです。遠い将来、自分が 90 歳を過ぎるくらいおばあちゃんになっても、いつでもどこでも治療をしていたいです。
「真心を込めて仕事をしなさい」という、和食の料理人であった父の言葉を忘れないようにしています。自分の家族を触るように患者様に接するとことを常に心がけています。想いは手から伝わるといいますから、私の手からそんな真心も伝わるといいなと思います。


